役に立たない銅版画
#1銅版画って初めて聞いた
2021年5月12日
まず銅版画というのは、まったく不要不急の文化です。今の時代そんなものに時間を使い、ましてや売ってお金を頂こうなんて本当に申し訳ない…と思うこともありますが、私は美術作家として銅版画で絵を描いています。
「銅版画って初めて聞きました」というBUNCAの方からいただいたメールで、銅版画は超マイナーだということに先日気づきました。銅版画をやっている人が周りにいるので目を背けていたのですが、銅版画界はとても狭い世界なのです。やってる人も少なければファンも少ない。紙を大量に使う銅版画は時代遅れも甚だしく、レトロ趣味なマニアの世界です。デジタルで描いてTwitterとかpixivに投稿した方が、よっぽど多くの人にみてもらえる。モノよりデータです。
しかし!銅版画も知ってもらえば楽しくなるかもしれない。カセットは流行ったし、漫画も何話か読んで設定理解しないとハマらないですもんね。銅版画って一体なんなの?という疑問がすこしだけ無くなるような、ゆるめの銅版画エッセイを書きたいと思います。
銅版画は絵を描く方法の一つです。むかしむかし、ヨーロッパあたりではじまりました。細かい歴史はここでは割愛いたします。機会があったらご紹介したいと思いますが、「銅版画」で検索すると出てくる、美術大学のサイトでも詳しく知ることができます。きっとどこかで見聞きしたことがある、ピカソ、レンブラント、ゴヤなんかも銅版画の作品を残しています。
絵を描く方法は、デジタル、油絵、水彩、日本画、版画、アクリル、色鉛筆、木炭…など数え切れないほどあり、その中で銅版画は印刷技術を使う技法です。銅の板を危険な溶剤を使って溶かしたり、道具を使って傷をつけたりして絵を描きます。基本的に換気と手袋が欠かせません。環境にも体にも悪い技法です。
なんでその技法を選んだの?とよく聞かれますが、むりやり音楽に例えると「バンドやりたくてギター始めたけど、ボーカルもドラムもいいよな、でも地味だと思ってたベースやってみたら意外にハマっちゃったな~」みたいな感じだと思います。たいそうな志は無く、得意だったり好きだったり、色々な楽器を演奏する人もいれば、一つを極める人もいる。その楽器にしかない音が作品に必要、という場合もありますね。
ちなみに私が銅版画を始めたきっかけは、美術大学の版画コースに入ったからです。それまで特に版画に興味があったわけではありません。全ての大学の油画コースに落ち、ムサビの版画だけにギリギリ補欠合格して大学に進学しました。もう二度と美大受験はやりたくありません。だからブルーピリオドも怖くてまだ読めていません。
美術大学の版画コースでは、様々な版画技法を教わりました。銅版画以外にも、木版画、リトグラフ、シルクスクリーンなど沢山の技法があり、ゆっくり4年間かけて、私は銅版画に向いているかもなーと思ったので今も続けています。
それでは、私の銅版画を紹介いたします。今更ですが、私は狭い銅版画界でも全く存在感のない、邪道な作り方をしている作家です。私の作品が最初に観る銅版画になってしまう方は可哀想に。『版画芸術』という立派な雑誌に現代作家の銅版画が載っていますので、銅版画界のど真ん中が気になる方はぜひご覧ください。最新190号には、私が銅版画を続けているきっかけで大尊敬している重野克明さん、私に”もぐ”という黒猫を授けてくれた、ものすごいさきちゃん(村上早さん)が特集されていたりと、周りにいた方々の作品がたくさん掲載されています。版画専門の紙の雑誌が令和にも残っているのです。すごいですよね。
ここでも有名な銅版画作品の紹介をするつもりですので、この先もお付き合いいただけたら、美術館がちょっとおもしろくなるかもしれません。
Mog
技法/エッチング,ドライポイント,手彩色
サイズ/360×360mm
制作年/2014